蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

地震とフライパン/地震と住所/地震と心配

晩は千葉県を震源として大きめの地震があり、都内に在を構えるうちも、よく揺れた。

あ、なんか揺れた?と思った次の瞬間にはドカンと大きくなって、シーリングライトが「ぐわんぐわん」と音を立てて揺れ、地鳴りが空まで響いた。コンロに置いていたフライパンが吹っ飛んで台所をカーリングよろしく流転して冷蔵庫にぶつかり、止まった。

iPhoneがけたたましく警報を発す。

私は恋人と抱き合ってその様子をじっと見ていた。

幸いにも我が家の被害はフライパンが吹っ飛んだことくらいだったが、いずれさらに大きい地震が来たときにはグラスとか皿まで飛び散って悲惨な目に遭うだろう。

先日購入した1400円の可愛らしいグラスが割れやしまいか私も恋人も心配していて、フライパンはともかくあのグラスを真っ先に救出すべきだったと反省した。グラスは今、我が家で命の次に価値のあるものなのだ。

 

地震があってすぐに「地震だ」とSNSで発信すると住所が特定されるかねない。

地震に限らずどの災害でも同じことで、特に集中豪雨は地域を特定されやすいのでSNSですぐには発信しない方が良い。

でもまぁ、私は都内に住んでいることを公言しているので、地震のあった旨を発信した。タイムラインには同じような人がたくさんいるだろうし、「地震だと発信すると地域を特定されますよ」と忠告をする人々も多く見られるんだろうな、と思ってタイムラインを覗いたらまったく思っていたとおりだったので安心した。気が狂った人はいないみたいだった。

震度まで公言するとさすがに特定されやすくなるのでやめた方がいいけど、都内在住で地震があったら「地震だ」と言うくらいはべつにいい気もする。めちゃくちゃ人口が多いから。これが根室とか福井とか佐多岬だったらあっという間に絞られてくるのでやめるべきだが、東京は人口も多く密集しているので、詳しい情報を載せず「地震だ」くらいなら大丈夫そうだ。それでもまぁ、静観が無難であろう。

田舎にめちゃくちゃなコンプレックスをもって上京した人は喜び勇んで「地震だ!都内で!東京で!地震です!揺れてるよ!東京の自宅が揺れてます!」と発信するのだろうか。

わからないけど、そういう心持ちの人はいると思う。

 

地震があるとかならず恋人との話題に上がるのが「地震が起きたときに風呂に入っていたらどうする?」問題である。彼女はそれをかなり恐れている。

「湯船に浸かっているときならまだいいよ。でも、これがもしトリートメント中だったら?トリートメントを一生流せないまま避難するの?もしもドアが歪んで裸のまま閉じ込められたら、あなたはわたしを助けてくれるの?」

「体当たりしてドアを破るよ。椅子とか打ち付けて破壊するだろうね」

「もしも破壊できなかったら?」

「頑張るしかない」

「裸のままでいたら死ぬでしょうね。濡れてるし」

「たしかに、ずっと濡れていていいわけがないね。人間は特にね」

「魚になれってこと?」

このように議論は有効な手立てを与えない。実際、風呂に入っているときに地震が起きたらどうすべきだろう。

「わたしが風呂に入っていて、あなたがトイレに入ってたら?」

「しかもおれはひどい下痢で、とても立ち上がれない。ただでさえ危急存亡の秋(とき)に」

「そうなったらオシマイってこと?」

「君は体験したことがないからわからないだろうけど、とてつもない下痢というのは本当にとてつもないんだよ。体の中から空が割れるような音がするし、絶望が神経を締め付けて頭痛や吐き気を催すし、視界も狭くなるんだ。もちろん、お腹は雑巾絞りされるように捩じれるほど痛い。そんな状況で地震に対処できるとは思えない。そんな下痢になった時点でオシマイなんだよ」

「泣き面に蜂ね」

「あのグラスも割れてしまうだろうね」

「それだけは嫌」

 

この議論で結論が導かれたことはない。

現実にそういう状況にならないとどうなるかはわからないのだ。たぶん、現実で起きたら現実的に対処するだろうが、できればそんな状況にはならないでほしいものだ。