蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

マスクなき世界

うずっとマスクをしなきゃ外に出られない状況は久しく、たぶんあと2〜5年くらいは続くんじゃないかと思ってる。

マスクは息苦しいし邪魔だけど、慣れてくるともはやマスクがないと落ち着かなくて、昼食時にマスクを外すのすらなんだか不衛生に思えてならなくなってきた。マスクを外さなくても食事ができるように進化するしかなさそうだ。

 

恋人と、マスクを外した世界について話した。

「帰り道ね、家の近くまで来たらあえてマスクを外して歩いてみてるの。ほんの50メートルくらいだけど。それで前はこういうことなかったんだけど、マスク外して歩くのってすごく恥ずかしいなって思えるのね。化粧崩れてないかとか、くちびる荒れてないかとか不安になっちゃう。結構そういう女の子多いかも」

マスクのおかげで口周りの化粧を軽く済ませる、もしくはしない人が多いらしい。その気持ちはよくわかる。私も時間がなかったら髭を剃らないし、それでバレないから。

口元がコンプレックスの人はマスクで得をすることもあっただろう。私も歯並びが悪いので助かっていた。

「マスクをしなくてよくなっても、すぐにはマスクを外せない」

コロナが収束したら、マスクに関わる新たな美意識というか価値が創造されて、文化は少し変わっていくのかもしれない。

 

マスクありきの学生生活を送った子たちはどうなっていくのだろう。

入学してからずっとマスクをしていて、昼食も席を離して喋らずに食べるから、友だちの素顔も正直あまり見たことない。

でも好きな子はできる。

あの子の声は鈴のようで、髪の毛はくるりと可愛くて、なによりも話していて楽しく、とても気が合う。手を繋ぎたいと思う。アルコール消毒をしてから。

マスクの時代、見た目で誰かを好きになるなんて機会そのものが無いのだから自ずと内面重視になってくる。それはなんだか愛、というものに近いような気がする。浅くて青い愛かもしれないけど、人はそもそも見た目だけが魅力じゃない。

僕はあの子が好きなのだ。あの子とお喋りをするのが、心を通わせるのが、好きなのだ。あの子の心が愛しくてならないのだ。

そう思っていた。

あの子がマスクを外すまでは。

僕が好きなのはあの子の内面だったはずだ。見た目なんかじゃなかったはずだ。

マスクを外した彼女を見て、僕は肩を落とした。彼女の素顔にがっかりしたんじゃない。僕が人の素顔に少なからぬ期待をしていたことを浅くて青い愛などと言って綺麗な言葉で誤魔化していたことに本当にがっかりしたのだ。

 

そういうこともあるかもしれない。