蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

満員電車のカップル未満

車内に、めちゃくちゃ酒に酔ってるカップルがいた。

時刻は20時前くらいで、そんな夜更けでもないから、きっと昼間から呑んでいたのだろうと思われた。

二人ともスーツを着ていて、同じ職場の話をしており(大きめの声で会社名を何度も口にしていたのだが、超大手企業だった)、そこから推察するに大規模な一斉研修のために全国の支社から集められたらしく、その打ち上げでもあったのだろう。

満員電車の吊り革に掴まる二人は、ちょっとこれ、目を離したら、チューしちゃうんじゃない?ってくらいの距離感で体をくねらせ、男は女の肩に手を回し、女は男の肩に頭をもたらさせながらお互いのにおいを擦り合わせていた。電車内でやることではないし、迷惑極まりない。

が、カップルの隣の吊り革に、私は移動した。

これは、面白いぞ、と思ったのだ。

二人はかなり酒臭く、両脇の吊り革が空いているのにも納得した。単にイチャイチャしているだけでなく、実際問題臭いがキツかったのだ。

首を横に向けてまじまじと観察するわけにもいかないので(不審者になってしまう)、夜の車窓越しに映る反射で二人をチラチラ観察する(不審者だ)。

 

いくらか耳を向けていると、なんとなく話が見えてくる。

今日の酒が美味かったこと、料理も美味かったこと、新宿歌舞伎町をもっと掘り下げたかったこと、◯◯先輩はいい人だということ、地元のこと。

酔っ払っているので会話に脈絡はないが、ひとつわかったのは、二人は関東の出身ではないということと、二人はカップルではない、ということだった。

女の子の方が男の子に対して敬語だったのだ。

「△△さん(男の子の名前)はうちの支店の近くでお昼とるときどうしてんですか〜?」

「ビルの地下のね、あそこにもいい店が……」

どうやら先輩後輩の関係らしい。

おもしろくなってきた。

「それにしても、お前、こんなに酔っ払ってよ〜。彼氏に写真送っちゃうぞ?」

「それは、反則ですぅ〜」

かなりおもしろくなってきた。

こいつ(女)、彼氏がいんのか。

そんでこいつ(男)、それを知ってんのか。

いいですねぇ。

しかしながら、男に意地悪なことを言われて、え〜…とか、あーん…とか言いながらも満更でもない様子の女。目をトロンとさせて男にもたれかかり、男も女の肩を離さず、距離感と接し方が完全にワンチャン狙ってるのが見え見えで、二人の様相はもう人の皮を被った発情期の蛇みたいだった。身体と思念がもつれ合い、一本の縄になろうとしている。

こんなんさ、もう……。

このあと泊まるのか帰るのか知らないけどさ……。

空席に女が座り、男に「荷物持ちますよ」と両手を差し出すが、男が「荷物くらい自分で持つ」と断ると、女が「じゃあ、私のお膝に座りますか?」なんて言ってやがる。

 

これ、ヤるな。

確信した。

 

結局、はたから見るこういうのがいちばん面白い。当事者じゃないからこそいいんだ、こういうのは。

満員電車もたまにはいいもんだと思った。

 

あと、こういう人間観察はシュミが悪いのでやめた方がいいと思った。