仕事で午前中は外出していた。
会社に戻ってやることがあったため、慌ただしく帰社したあとは、業務の忙しさにかまけて昼ごはんを食べなかった。
気づいたときにはもう15時半だったし、なんかお腹も空いていなかったので、たまには食べない日があってもいいかと、放置。こんな日があってもいいじゃないかと心の中で高笑いした。
節約ができた、はっはっは、と。
17時ごろ、遠浅の浜辺のようにな漠とした空腹に、私は襲われていた。
でも今からコンビニ行くなんて嫌だし、そもそも今日は昼を食わんと決めた自分に敗北した気がして、絶対に食事は摂りたくなかった。
だが、このままだと体内の血糖値が下がりすぎて手足が震えてきそうだったので、机をあさったら出てきた のど飴を舐めた。
なんで のど飴なの。
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会社には、カードキーなるものがある。
これは朝一番に来た人が会社のロックを外すために使うもので、要するにほとんど使用機会のないものなのだ。私は一番に出社したこともなければ最後までいたこともないので、このカードカーの存在をすっかり忘失していたのだが、今日、ふとしたときにその存在を思い出し、そして背中に冷たい氷が落ちていく感覚を覚えた。
カードキーをなくした可能性がある。
それとなく、ただし慌てず、ほんとうに何気ない感じでデスクのキャビネットの中を探してみるが、やはり、ない。
慌てない。
ここで慌てると、周囲にどうした?と訊かれて厄介なことになる。
大丈夫。落ち着け。
一応、私は転職したばかりで試用期間の身。ここで会社の鍵をなくしたなんてバレたら、まぁ十中八九契約破棄でしょうね。だから、
慌てるな。
だいたい、まだ本格的には探してない。
本格的に探せばきっとある。こういうのは、本格かそうでないかでだいぶ結果も変わってくるもんだ。本格であればあるほど切迫してくるから、常に心に余裕を持て。コーヒーでも飲もう。
ほら、こう考えている間にも、どこを探せば出てくるか候補がスラスラと出てくる。大丈夫だ。紛失の可能性についてはその倍くらい出てきてるけど。
とにかく私は、動揺を隠し、一旦帰ることにした。
帰宅して一度態勢を立て直した方がいいと判断したのである。
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帰りに、帰路とは反対方面の有楽町に寄り道しようと思っていたのだが、前述のこともあったし、とにかく私は腹ペコで感情的にもほとんど抑うつ状態であったので、寄り道は諦めた。腹ペコで のど飴を舐めると抑うつになるらしいので気をつけたまえ。
もう、今日くらいしか有楽町でその用事を済ませることはかなわないのだが、なんだかどうでもよくなっていた。
それに、有楽町から電車は信じられないくらい混雑するのだ。激しい空腹を抱えながら満員電車に耐えられるとは思えなかった。
ああ、もうどうしよう。
カードキーまじでやばい。
と、駅のホームでカバンの中を「本格的に」探しはじめてみたら、カバンの小さいポケットに、大切な思い出のようにそっとそこに、カードキーが挟まっていた。
安心したら、よりいっそう、腹が減った。