会社の人が職場に赤ちゃんを連れてきた。
1歳半の幼児である。
大人になってからほとんど初めて赤ちゃんというものに触れたのだが、すごい生き物だ。
赤ちゃんを目にした途端になんか、脳の髄のとこから、ブシャァぁああああっと温かくて冷たい液体が噴出した。そんでもって、煮えたぎるほど熱いのに、寒気がするほどの鳥肌が立った。
視界がクリアになって、すべての物の解像度が上がった。
すごすぎる。
赤ちゃんは、可愛すぎる。
庇護欲というのかわからないけど、いてもたってもいられなくなり、つい、守りてぇ、と口に出していた。
この国はもっと子どものために動くべきだ。巨大な権力に対して怒りが湧いてくる。みんなで赤ちゃんを囲みながら私は義憤に燃えていた。
と同時に、目の前の小さな命への畏敬と尊さに目頭さえ熱くなり、可愛さの雷に全身を切り裂かれたかのように動けなくなって、私は秒刻みで激しい感情の起伏を経験していた。
子どもってこんなに可愛かっただろうか?
10代の頃は、べつに子どもなんて好きじゃなかった。
なんなら、うるさくて愚かな生き物だと思っていた。なんも可愛くないし、ヒトの子どもなんてちょっとした醜ささえあると断じていた。
それがアラサーになった今や、我ながらどうしたんだと呆れる。
たぶん、大人になったことで、子どもの頃の自分から距離が置かれて、他人の子どもに対して自己を投影せずに純粋な気持ちで、見たままの印象=可愛さを受け止めることができるようになったのだろう。
大人になってよかった。
それから一日仕事をしていて、自分がひどく機嫌が良いことに気づいた。
ふと子どもの様子を思い出してはマスクの下で微笑んでいる。
子どもってすごい。幸せになってほしい。