光くしゃみ反射、という特異な体質だ。
これはどういうことかと言うと、眩しいところにいるとくしゃみが出てしまうのだ。
私の場合は軽い症状(ってか体質)なので、たとえば暗いトンネルから明るい外に出た際に「ふにゃあん」(注)とカワイイくしゃみをしてしまう。
(注)「ふにゃあん」とは、筆者のくしゃみの音である。実際は「ヘアッッッ!」とおじさんみたいな声を出し、その後に「うう……」と唸って鼻をすすり、どこか満足げな面持ちでニヤニヤする。
反射とは人間が自力で制御しようのない体の反応のことで、たとえば熱いヤカンに触れた際に思わず「アィッッッ!!!!」と叫び、耳たぶにて指を冷ましてしまうことなどが挙げられる。
光くしゃみ反射もそのうちのひとつで、光源や眩しいものを見た際にくしゃみが出る、という神さまのいたずらで作られたみたいな反射であり、これはどうやら遺伝するらしく、父が同じ体質であった。
光くしゃみ反射、子どもの時にツラかったのは運動会のときだ。
私の小学校では紅組白組ではなく赤、青、黄色の三色戦だったため、全員が白い帽子を被っていた。開会式では午前10時の眩しい光の中、全員が白い体操服に身を包み、全員が白いキャップを被っていたものだから、その太陽光の反射にはすさまじいものがあって、目の弱い私は目がほとんど開けられなかったし、目を開けたら開けたで太陽光反射によってくしゃみが誘発され、およそ30秒に一回のペースでくしゃみをかましながら選手宣誓を聞いている有様だった。周りの人、なんだコイツ……って思っていただろうな。へっ。
運動会に関しては父もそうで、観客席から、選手列から、絶え間なくしゃみの音がするのだった。くっさめくっさめ。
大人になってから私の場合は症状が多少おさまり、あまり光でくしゃみが出ることはなくなったのだが、時たま、呼んでもないのに眩しさにくさめが放たれ、鼻垂れる。
困るのが運転中だ。
やはりトンネルから出たときは危ない。ぎっと目に力を入れて堪える。眩惑(げんわく)もあってかなり危ない。
光くしゃみ反射はこのように何の役にも立たないし完治もしないが、しかし、そうとう不便ということはなくて、人間の体のメカニズムにこういう不要なものがあるというのはなんだか微笑ましくもあって憎みきれない。
実は便利なこともある。
「あっ、くしゃみ出そう」って時、みなさんどうしますか?
「えへっえへっ」と口を開けて中空を眺めるのではありませんか?その相貌は、まさしく阿房列車(あほうれっしゃ)そのもので、いちいち屈辱的な気分に陥りませんか?
しかも、マヌケ顔を晒したにもかかわらずくしゃみが出なかった時、あなたたちは、初めて部屋に女を連れ込んだのに緊張のあまり疲れて眠ってしまい、タイミングを逸して童貞を捨てられなかった十代の男子みたいな顔をしていませんか?みっともない。
光くしゃみ反射の特性を持つ選ばれし者はそんなことにはならない。
あ、くしゃみ出そう、と思ったら明るいものを見ればいいのだ。しかも、ほんの少し明るければくしゃみを誘発できるのだ。
これに関しては便利だし、私もすんなり、童貞を捨てることができた。(注)
(注)光くしゃみ反射と性体験の関連性はなく、根拠がない。筆者は何回か童貞を捨て損なった経験がある。
光くしゃみ反射について詳しく知りたい人は、Googleで調べるなり、専門書を読むといいだろう。私は読んでいない。