蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

「趣味読書です」の難しさ

 新入社員といえば自己紹介だけれども、そのときによく訊かれるのは「趣味」である。私は趣味が読書であるので「読書です」と答えるのだが、多くの場合、ここから先話題の進展は望めない。

 なぜか?

 本を読む人が少ないからである。

 

ぼく「読書をよくします」

上司「へぇ~すごいなぁ。オレ本なんて全然読まないから……。やっぱり大学出てると違うねぇ~。何読んでるの?」

ぼく「村上春樹とか、夏目漱石とか……」

上司「うわぁ、がっつり、だね。ふう~ん。野球は?好きな球団とかさ」

ぼく「いやぁ、ぜんぜんわからんのですよ。ハハハ……」

上司「そうかそうか、じゃあ休日はあまり外出しないのかな?」

ぼく「そうですねぇ……あまり」

上司「スポーツもしない?部活はなにやってたの?」

ぼく「バンドやってました」

上司「へぇ~そうなの!好きなバンドは?」

ぼく「ビートルズとかスピッツとか、南こうせつとかフォークも好きです」

上司「そうかそうか。全然ジャンルがかぶらないな。オレはね、ブラックサバスとかそっちのほうなんだよ。今のやつは聴かないの?米津とか星野源とか」

ぼく「ぜんぜんなんですよねぇ……」

 

 なんかすみません。

 上司に振られた話題を、私は片っ端からなぎ倒していく。無垢な巨人のように。

 完全に、世間がもつ話題に一切興味のない私のせいなのだけど、それにしても人と趣味の歯車がかみ合わない。

 だいいち、音楽や本はジャンルが多岐にわたるため、たとえ大きなくくりで趣味が合たとしても、そこから先で合うことはほとんど稀だ。私の好きなジャンルは古いものばかりなので、せめて少しでも多くの人を捉える現代のものやよりラフなものも話題にできる程度に知っておく必要があるのかもしれない。かもしれないというか、ある。

 

 でも村上春樹はやっぱり話題性がある。

「あ~あのノーベル文学賞の」なんて言われる。「いや、まだ獲ってないんすよ」と答えるとひと笑い獲れる。

 まぁ、そのくらいなんだけどさ……。

 

 

*****

 

 

 それにしても、読書をする人が少ない。

 職場の先輩に一人だけ読書が趣味らしい人がいるのだけど、ぜんぜん爽やかじゃないし、わけのわからないところでキレたり、話し方がもごもごしていて何言ってるかわからないし、ラッシュ時に人を刺しそうだなって感じの人で、絶対にお近づきになりたくない。本ばっかり読んでるからそういう人になるのだ。

 

 読書をほとんどしない人からすると、なんだか読書は頭を使うものらしくて、賢い人が趣味とすることで、敷居が高い(誤用)ところがあるらしい。

 そうだろうか?

 私は人間的に頭が悪いし(百分率に自信がない、会話が不得意、すぐ忘れる、難しい単語があると不貞腐れて理解する努力をしないなど)、人間性も低いのでよくわからない。

 本も途中まで読んで辞めてしまうこともあるし、本棚に積まれている読んですらいない本がわんさかある。

 私は本に対する敷居が低いのだと思う(敷居が高いという言葉を本来とは違う意味で使っているけど、許してほしい、誤用の方が便利なので)。

 本、読んでるから偉いってわけじゃないし、たしかに時間がかかるし、堅苦しさは否めないけど、もっとラフなものになればいいのにな、もっと気楽でいいのにな、と思う。

 

 逆に、このまま堅苦しい方向で進んでいって、もっと読書人口が減ればいいとも思う。

 そして、本を読むことは知識人という脳みそ高級階層の人間のすることで、一般的な低俗人間にはとてもできることじゃない、あ、本を読んでる人がいる、文化レベルの高い人間だ!と思わせるくらい突き進んでほしい。

 「読書」がブランド化されて、そうなると逆に流行しだすんじゃなかろうか。

 そんなことあらへんだろうか。

 

 あれよ。

 

 そうなったら、私は高級文化人になれるんだから。