私はユーザー先の会社内のITグループに派遣されるかたちで働いているので、ぱっと見はそのユーザー企業の社員だし、ユーザーからも身内だと思われているのだが、実のところ私たちは情報サービスを提供する他企業にすぎない。派遣社員ではないのだけど。
そこを「利用」されている感があって、要するに「情報サービス」という言葉を良いように悪用されているのだが、まぁまぁ、身内みたいなもんなんだから、長い付き合いだし人助けだと思って、ね?みたいな感じで無理な工数の仕事を押し付けられることもあるし、うちの会社がちょっとでもやらかしたりすると「契約を打ち切りますよ」みたいなことを言われてしまう。
ユーザー企業は日本有数の大企業なのだけど、はっきり言って汚いもんだ。
ユーザーのITグループに、今年で4年目の先輩がいる。
彼は、見た目28くらいに見える小太りで、案件を抱えすぎていていつもオフィスを奔走し、私たちの要求をいちばん後回しにするために常に苛立たせており、そのせいでライセンスが切れてユーザーに迷惑がかかる、サーバが落ちるなどのミスを連発、そのユーザーからの文句の尻ぬぐいは私たちの仕事なので自分は胸をなでおろす、というとんでもない男である。
私は先輩を、見下していた。はっきり言って。
だって28なのに、そんなにタスク管理できないなんておかしいでしょう。
判子を捺せば終わる仕事をどうして後回しにするのだろう。
無能なんじゃないか。
しかし、他の先輩から、話を聞いてその想いを改めることにした。
「じゃあ蟻迷路さんは、彼と同い年なんですね」
そう言われた。
え?
あの人、24なの?
どうやら彼は専門学校を出て就職したらしく、20のときにここに入ったのだという。
驚いた。
私と同い年であんなに働かされているのか……可哀相だな……。
同い年にしてはよくやってるじゃないか。会議の進行もするし、いろんな企業とスケジュール管理してるし、海外出張だって行くし……すごいなぁ。
4年目ならそんなもんなのだろうか。年齢なんて関係ないのだろうか。
でも、ともかく私は「見下し」を反省した。
同い年で私よりもすごい人がいるということが私の心に火を点けた。ものすごく小さな火だ。線香みたいな。
ちなみに、ずっと同い年だと思っていたユーザーの同期の人が実は4つ年下だということが判明した。その人も専門卒でIT知識を蓄えてこの会社に入ったのだ。どおりで同期にしては仕事ができるわけだ。
その萎える事実が線香の火を消した。
私はのんびりやろうと思う。あの人たちにできることなら、私にだってある程度はいつの日かできるはずなのだ。そう思うことにして。