蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

IKEAでの有意義な過ごし方

 曜日、有休を取った。

 家でダラダラ過ごそう。外出を自粛しているのだ。

 しかし。

「電飾が必要になった。急遽IKEAに行って電飾を買わねばならない。今日買わなければ永久に買えない気がする。今だよ。今がその時なんだよ。」とうちの愚かな女2人(母と妹である)が喚くので、小一時間運転してIKEAまで出掛けた。

 

 ここでひとつ詫びたいのだが、私はIKEAに行くのはこれが2回目で、IKEAでの有意義な時間の過ごし方なんて知らないし(むしろ教えてくれ)、何をすると得なのか、どうしたら便利なのか、紹介するにはまったくの門外漢なので、この記事のタイトルは正確にはIKEAでの有意義な過ごし方(ってなんだろうね)」になる、ということをご承知おきいただきたい。

 なぁんだ、と思った人はここでブラウザバックしていただいて結構。閲覧数はこの時点で『既に』稼いでいるので。

 

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 大きいカートを借りて、手指消毒をし、マスク装着のうえ、店内徘徊をスタートする。

 緊急事態宣言が出されたとだけあって平日の店内は空いていたけど、緊急事態宣言が出された平日のわりには混雑している印象だった。

 世の中には急遽家具が必要になる家庭がいくつもあるか、あるいは愚か者と住んでいる家庭が多くあるらしい。

「他者とは2メートル以上距離をおけ。心も体も……」といったアナウンスがしきりに流れているため、客たちは意識的に距離を取って物品を検分しているのがわかる。

 私も流行病には罹りたくないので、人々から距離を取り、極力品物には手を触れずに舐めるように見回すだけにとどめ、手で顔を触らないようにし、こまめな水分補給を心掛けた。

 おんもは悪い病気がいっぱいいて怖い。さっさと電飾だけを買って、昼前にはIKEAを出て、家に帰って布団に篭り、俗世の記憶を捨ててしまおう。即身仏になろう。

 そう思っていたのに、例によって女二人はあれやこれやと目移りして遅々として先へ進まぬ。

 

「それいるの?」

「いらないけど、必要かもしれない」

「バナナの置物がいったいいつ、どんなときに必要になるんだよ」

「ただ見ていただけじゃない。なにもそんな言い方しなくてもいいでしょうよ。つまらない男。虚弱マルクス主義。神経衰弱」

 

 どうしてここまで言われなきゃいけないのだろう?

 まぁ、上の会話はだけども、「それは本当に必要なのか?」と問いたくなる場面は多々あった。

 だが経験上、買い物をする女に(っていうか男女問わないが)、そんなことを訊いたら一触即発は間違いないため、黙ってカートを押して時間が過ぎるのを待つしかない。待っていれば必ず潮は引き、月は欠けるのだ。

 

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 先に言っておくが、電飾は買えなかった。

 

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 モデルルームを見ながら、将来の生活に思いを馳せる。

 コロナ禍がなければ今頃恋人と新しい生活の拠点を定めて、部屋を借りて、家具をそろえて、引っ越しの準備を、同棲の準備をしていたんだなぁ、と心寂しくなる。

「二人掛けのソファが4万円かぁ……安いのか高いのかもわからないなぁ……できればとても柔らかくて、寝ることもできるしそれに乗って映画的冒険にも出かけられるようなソファがいいよなぁ……でも完璧なソファなどといったものは存在しないよなぁ、完璧な絶望が存在しないように……。」

「食卓は引き出しが付いてるタイプがいいなぁ……そこに箸やスプーンを入れたら省スペースにもなるし……でもクロスをかけたら取れなくなっちゃうな……彼女もなんて言うか……」

「おお、二人暮らしのモデルルームもあるんだ。いいなぁ、こういうの。もうちょっと物減らすとちょうどよさそうだな……これだけ揃えるのにいくらかかるんだろう……」

「お洒落な棚であえて部屋を区切って使うの結構良いな……」

「このソファでたまにはお酒を飲みながらさ、白ワインとチーズでさ、テレビ見ながら、なんかお喋りしたいよなぁ……」

 

 などと妄想をしていたらあっという間に時間は過ぎるし、家族にも置いていかれる。

 家具屋って妄想を膨らませるには安上がりな場所だ。

 

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 うだうだと買い物に付き合ううちに昼になったので昼食を食べ(肉を食べた)、コーヒーを飲んだら満腹で眠くなってきた。

 IKEAは歩かせるタイプの家具屋だ。入り口から出口までは道なりに数百メートル歩かないといけない。なにがなんでも。

 ちょっとダンジョンみたいで楽しさもあり、素敵な雑貨類に心ときめくので、物色中はあまり疲れを感じないけれども、ふと休憩したときに「結構キテるな」と気付く。

 そこらじゅうの椅子に座ったりしているとかえってそれが疲れたりもする。

 

 電飾コーナーに来た頃にはだいぶどうでもよくなっていて、母と妹は「これだというものがなかった」などと言ってさっさとその場を後にし、なぜか大きな鏡をカートに入れて、レジへ進んだ。

 

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 結局、この緊急事態宣言のさなかに、早急に必要な家具なんてものはないのだ。

 だからあの時IKEAにいたファミリーたちは全員、愚かな家庭を抱えていたのだろう。

 なんにせよ楽しかったけど。と、私は愚かしくも思う。