昨晩、ブログを書こうとブラウザを起動したが、なかなか開かなかった。
残り少ない練り歯磨きのチューブを絞りに絞ってようやく数ミリ出てきた、みたいな接続速度で、なんとかEdgeのホーム画面に繋がったけど、スクロールすると画像はいくつか表示されず、下の方は白い画面が広がっている。読みこめていない。
こういうときはルーターの再起動にかぎる。
あらゆる電子機器は再起動で直る可能性が高い。再起動で直らないところから対応の本番。まずは再起動してみよう。祈りながら。
が、再起動してみたものの、芳しくない。
知らない街の駅で降りて、小さな図書館を地図も無しに探しながら路地に迷い込んでいるような接続不安定だ。
我が家のWi-Fiはアパートの親機から分岐された子機を使用しており、このような場合、だいたい原因は共有の親機にある。
親機のトラブルについては管理会社に問い合わせるほかなく、昨晩は遅い時間だったから、翌朝も復旧しないようであれば連絡するかな、と諦めた。
おそらく、どこかの部屋で大きいデータをネットワークからダウンロードでもしているのだろう。
ブログは諦めて、小説を書いた。
ソフトはWordだ。
通常OneDrive(つまりインターネット)に接続されていて、作成したファイルはネットワーク上に保存されることになる。
昨晩は接続速度は遅いけれど、繋がっていないわけではない。念のため細かに保存しながら文章を書いていた。
千字くらい書いたときに、エラーメッセージが表示された。
「オンライン上の保存に失敗しました」みたいなメッセージだったと思う。
これは予想していたことだったので慌てず、OneDriveをサインアウトしてファイルをローカル(オフライン)に保存する。
そのとき、なにかメッセージが表示された。
「保存されていないデータは保存されません」みたいな循環した内容のメッセージだったと思う。そりゃ保存されてなければ保存されないよな。馬鹿にしてんのかっ。コンピューターのくせによぉ。
私はローカルに保存している。ネットワーク上には保存されていないのはわかりきってる。馬鹿が。問題ない。
と、万感の自信を持ってWordを閉じた。
結果から言うと、ファイルは保存されていなかった。
ローカルのドキュメントにも、デスクトップにも、「写真」にも、ゴミ箱にもない。
アホ・コンピューターの言っていた通り「保存されていないファイルは保存されていな」かったのだ。
Wordの「最近使ったファイル」とか「保存されていない文書」から探したが、なにも残っていない。
書いた文章を自分で消すのはためらわない。
だけど、他者から「消される」のはこんなにも屈辱的なのか。
私は時間をかけて無を生成していた。これなら飲酒でもしていたほうがよかった。飲酒して陰嚢でも揉んでいればよかった。
ふてくされて寝た。
翌朝、Wi-Fiの接続速度は回復していた。
私はもしかして、とあることに気付いた。
「OneDriveからサインアウトしてローカルに保存したと思い込んでいたが、実は保存はネットワーク上にされていて、保存後にサインアウトしているからローカルに保存されておらずファイルを参照できないのではないか?」
要するに、OneDriveにサインインすれば何とかなるかもしれない、と考えたわけだ。
早速サインインしてみると、オンライン上のファイルが参照され、その中に消えたと思っていた文章があった。
ああ、よかった。
これが消えた屈辱で夢見が悪かったんだ。けっこう自信作だったからな。
よし読み返してみると目を通したところ、しかし、それは小説の形態を取った怪文書にほかならず、データとして残っていたが、私が書いたものは「無」に他ならなかった。
やれやれ、消えたいのは私だよ。