蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

からあげ定食並盛900円

こ最近は運動をしていることもあって、なにか体のバランスが変わったのか、よく食べるようになった。

また、意識的に食事を多く摂るようにしていて、贅肉が、とかコレステロールが、と心配する以前に肉付きが悪いので、食べたいものをなんでも喰らうことにしている。

私はいま成長期で、肉を、魚を、野菜を、炭水化物をとにかく欲している。

 

 

近所の美味いと噂の定食屋が気になっていたので行ってみることに。

1000円以内で美味しく、なかなかの老舗らしく地域に愛されてきた店らしい。店先に「からあげ定食」「焼肉定食」「とんかつ定食」「ひれかつ定食」「ニラレバ―定食」「カレーライス」「チャーハン」「肉豆腐」「餃子」……などメニューが提示され、バリエーションは申し分ない。

店内は良い意味で汚かった。

使い込まれたカウンター、ぼろぼろの爪楊枝入れ、ちらりと見える厨房のフライパンの感じ、換気扇の上の部分の油汚れ、こなれてる店員、いい感じだ。

「使い込まれている汚さ」は信頼に値する定食屋の証である。

カウンター席のみで座席は狭く、男性客がほとんどだった。入り口も暗かったので女性はなかなか入りずらいだろう。

私はからあげ定食(並)を注文した。

 

まずご飯と味噌汁がカウンターに運ばれたのだが、ここで私は「やってしまった」と思った。

ご飯の量が成長期の高校生くらいあったのだ。

味噌汁もそれなりの量。盃(さかずき)、という言葉が脳裏によぎる。

ひとくちすする。美味い。美味いが、多い。

周りをよく見ると、男性客のなかに華奢な人はおらず、がっしりした体型の人が目立った。どう見ても私がここにいるのは場違いだった。インターハイの会場に間違えて入ってしまった地方第一予選敗退者みたいだった。

私は全部食べれるだろうか?

しかしながら、残す、という選択肢はない。

カウンター席だし、会計が座席で精算するタイプだったから、残したら店員にバレる。その罪悪感に耐えられそうにない。周囲の屈強な男たちから「今どきの若モンは少食で弱輩だねェ。富国強兵の時代にあって日本男児として恥だねェ」と見られてしまう。

それに体を鍛えている身分でありながら、この程度食べられないでどうする、という義務感もあった。私は強くならねばならないのだ。筋肉を欲しているのだ。

 

まもなく からあげが着卓した。幸いにも標準よりやや多いくらいの量だった。

味は申し分なく美味い。下味がしっかりついていてこれ以上にご飯がススムおかずもない。それをチャンスに大量の白飯を掻っ込む。

こんもりとしたキャベツ。多いな。古墳かと思った。

マヨネーズをかけて食べる。食べるが、いったん置くことにする。米とからあげを優先消費する作戦。キャベツは米が無くても食べれる。まず先に米を消費して腹の容量の様子を見るべきだ。

つけ合わせのポテトサラダもゴロっとポテトが大ぶりで、味が濃くて美味しい。マカロニが入ってるポテサラは善とされている。ここのポテサラは間違いない。間違いないが、多い。余計ですらある。ポテサラも後でいい。

からあげと米だ。なによりも。

 

あとはもう、無心だった。

美味しさを感じてはいても、味わうことができない。

「食べなければならない」一心だった。

こんな忙しなく義務的な食事をしなきゃいけないなんて、悲しいことはない。これが不味ければどんなに良かっただろう。美味しいだけに殊更残念なのだ。

 

米とからあげをなんとか食べ終わり、腹は9分目。これならあとのキャベツとポテサラと味噌汁、なんとか行ける気がした。

 

食べ終わって店を出たとき、本当の満腹感が襲ってきた。

超満腹。富士山に喩えたら12合目くらいで、標高をはるかに超えて空中浮遊しているところだ。

体が重い。視界がぼやける。きつかった。足がふらついた。どこかで横臥したかった。くしゃみをしたら鼻から米が出てきそうだった。

だけど「あの量を食べきった」という自信がついた。

私は今成長期。

あれくらい食べれるんだから。

満腹をさすりながらほくそ笑んで、よたよたと家路を戻った。

 

 

食べ終わって6時間余り経った今もまったく腹が減っていない。