蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

クロワッサンを弾劾する

たちは見たいものを見て、聞きたいものを聞き、食べたいものを食べ、感じたいことを感じており、日常生活の行動はさも自分の選択に依って振舞われているように錯覚しがちだが、実はそうではない。

騙されている。

見たいものを見ているのではない。

「見たいと思わせるものを見させられている」のだ。

感じたいことを感じているのではない。

「そう感じるように仕向けさせられている」のだ。

僕たちは利用されている。

そこらじゅうで流れる広告や日本語文法、高い塔からまろび出て頭脳を侵食している「電波」によって僕らは操られている。人間の知覚なんてコントローラブルにできており、たとえば催眠術とかメンタリズムとかマジックなんかがそうだけど、錯覚や認知のズレを利用してイリュージョンのように見せているエンタメがあるように、日常生活でもそういった「仕組み」によって見えない糸で大衆を操っているのだ。そういったトリックを僕たちが見抜けないのは当然のことだ。なぜならそれは認知の盲点に張られている、僕たちの意識の外にあるものだから。

僕たちは騙されている。

そのようにして、今まで「そういうもんか」と納得させられて無理矢理享受させられていたものがある。

 

クロワッサンだ。

f:id:arimeiro:20220126123003p:plain

クロワッサン、美味しいですよね。

美味しいんですよ、実際。さくさくしてて、バターが香って、かたちもなんかカニみたいで可愛らしいし。

でもね、騙されてるんですよ。

その美味しさは本当だとしても、申し訳ないがクロワッサンは「食事」として成立していない。

断面をよく見てください。

f:id:arimeiro:20220126123226j:plain

スカスカ。

前衛的な建築か?ってくらいスカスカ。シンナー吸いすぎ中学生の脳みそみたいにスカスカ。

こんなんで腹膨れますかっつー話よ。

パン自体欺瞞に満ちていてそもそもイーストの発酵による「空間」が多いのだが、クロワッサンはパイ生地のようなものを重ねて丹念に焼くものなので、そもそもスカスカなパイ生地が重なっていたところでできあがったものは「空間」の集積に他ならない。セミの殻よりも薄い生地を「空間」が繋ぎとめているのだ。

僕たちはクロワッサンというパンを食べているのではない。

「空間」を食べているのだ。

クロワッサンの「風味」という「空間」を食べさせられているのだ。

一度クロワッサンをぎゅっと潰してみてください。パチンコ玉くらいになるから。

僕たちは「空間」を食べて「わぁ、美味しい」と喜んでいるのである。腹を満たさないくせに立派に幅だけは取ってさも一般パン勢の顔をしている。

騙されてる。

情けないと思わんかね。

普段はクロワッサンを食べても「クロワッサンを食べた」くらいにしか思わないかもしれない。食べてみればクロワッサンなりに美味しいと僕だって思うだろう。でもたとえば、腹ペコで部活から帰ってきて、夕飯までのオヤツにクロワッサンしかないの、とお母さんに言われたらどう思いますか?

そのとき真に、肚の底から「クロワッサンは空間でしかないから食べても意味が無いんだよな」ということを、自ずから理解するだろう。

貴族の食べ物なのだ。

特権階級の、食事を戯れのひとつとして捉えている上級国民の食べ物だ。キゾクたちは寝そべりながら食事を口に運び、満腹になったら孔雀の羽を喉に入れてすべて吐き出すそういう食事をする。1日7食もそうやって食べる人たちのためのパンなのだ。

クロワッサンは美味しさを味わうためのパンであり、腹を満たすためのパンではない。

ここに認知のズレがある。

 

塩パン。お前もだ。

塩パンのスカスカさにもほとほと呆れるばかりだが、しかしながら、塩パン、お前はまだ潔い。

「中身はスカスカだから」と公言している。「わたしはスカスカだけど、そういうもんだから」と塩対応である。スカスカを自分のアイデンティティの一部であると認めている感じがする。

だがクロワッサン、オメーは駄目だ。

「わたくしは、ほら、こんなに層になっておりましてよ」とモコモコに膨らんだスカートをめくって見せてくれるが、その中にあるのはすらりと伸びた脚ではなく、陰臭く広がる亜空である。

「層」で中身を誤魔化している。さも「いっぱいある」ように見せている。とにかくなにかで中身が埋まっているように見せ、食べ応えのあるようなバターの香りをプンプンさせ、実際にカロリーは高く設定されている。

しかし、腹は膨れない!

この誤魔化しこそが僕たち大衆への「欺き」なのだ。

 

クロワッサンを弾劾し、今一度僕たちの認識を改めるべきだ。

 

「では貴方」とクロワッサンお嬢様。弾劾裁判にかけられ厳しい詰問をものともせず涼しい顔で彼女は言う。

「わたくしの中身を、ぎちぎちに詰まった小麦粉の塊で埋めて差し上げてもよろしくってよ。さくさくの食感は失われ、バターの香りは芳醇さを忘れ、さらに高カロリーになって差し上げてましょうか?貴方のお望みどおりに」

いや、でもそうしたら、クロワッサンの美味しさは失われてしまうし……そもそもそれはクロワッサンではなくなってしまうのでは……

「あら、じゃあどうすればいいの?」

あ、いや、ただ僕はですね、世間の皆様のクロワッサンへの認識を変えたくて……腹を満たすための食べ物じゃあないのだと……

「なら最初から他に言うべきことがあるはずよね?何を言うべきかお分かりになって?」

 

お腹が空いたら「まるごとソーセージ」を食べればいいじゃない。

f:id:arimeiro:20220126130824j:plain