食パンをのせるためだけの皿を買った。
330円だった。
「330円ならいつ割っちゃってもいいな」と口に出して買ったのが、我ながらちょっとサイコっぽかった。
でも330円なら、割れても悔しくない。値段わりには可愛いし、手触りもすべすべしていて気に入ってる。
安価ゆえに細かいところに傷が入っていたり、突起があったりするのだが、パンを置いてしまえば目に入らないから気にしないことにした。
写真では見えないけれど皿には模様で時計が描かれていて、それは8時を示している。
この8時は夜じゃなくて朝なのだと思う。朝ごはんに使ってくださいね、という皿からのメッセージだ。パンと言えば朝ごはんでしょ日本人は、という偏見も含まれている。そんな偏見がなければ2時とか11時32分を示していてもいいはずなのだ。
ただの模様に文脈があって、なんかここだけ意思を持っているみたいでなんだか怖いけど、それもパンを置いてしまえば問題ない。
電子レンジ可、オーブン可、食洗機可、なので、たぶん深海とかヒマラヤ山頂とか大気圏外も可なのだと考えられる。330円のくせに無駄にすごい耐久力だ。だが、電子レンジはともかく、大気圏外でもこの皿を使うかどうかはわからないから意味ない。
同じことが無駄に耐久性のある服とか時計とかにも言える。この時計は深海800mでも正確な時刻を刻みます、象に踏まれてもへっちゃらです、みたいな売り文句があるけど、深海で時刻を気にする人はいないし象に踏まれながら時間を測る人もいない。だいたい、そうなったときはいずれも死んでいる。
4枚切りの食パンを買って、バターだけでシンプルに食べた。
結局のところ、バターで食べるのが一番好きだ。
ふっくら、もっちりしていて、バターの塩気とパンの表面のカリッとした食感が合わさって至福の味わいになる。
なんだか口の中だけ、素朴だけど豊かな田園のある家の暮らしになったかのようだ。
新しいお皿を使うときって、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
食パンがいつもより美味しく感じる。
こういうのでいいんだよナ、と思いながらも、きっと3日後の私はジャムを塗るだろうことがわかっている。