蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

誰かの心の故郷

京の街に雪が降った。

雪って、音もなく降るから好きだ。その様子に「しんしん」というオノマトペをつけた人は「しーん」を生み出した人と同じくらい天才だ。

 

前日から気象庁が「今回の雪はマジで、マジ。やべぇなんてもんじゃねぇ。東北勢もびっくりだぜ?10cm。積雪10cmはいく。特別な用がない限り都民は家から出るなよ。死にたくなければな。オレとの約束だ」と大袈裟に注意喚起をしていたが、経験上、今回の雪は恐るるに足らないとわかっていた。

午後から雨の予報だったし、通勤時間帯は雪もそんなに降らない予報だったのだ。

午後から雨が降るということは、東京程度の雪なら、帰り際には融雪しているはず。電車も遅延こそしているものの、完全停止しているとは思えない。

おれは会社へ行く。

そう前日にも上司に誓った。

そしてだいたい予想どおりになった。

雪は昼過ぎには雨に変わり、冷たい風が吹いて雨に濡れるだけのつまらない時間になった。

警報も昼頃に解除され、東京23区は安穏を取り戻したようだった(23区以外は知らん)。

大袈裟に注意喚起をしておかないと、何かあったときに文句を言ってくる人がいるのだろう。今度は逆に、大袈裟に喚起したのにぜんぜんそんなことにならなくて文句を言う人がいるかもしれない。たぶん、前者も後者も同じ人だ。ろくでもない。

なにかあってからでは遅く、誰も被害を受けなければそれでいいので、大袈裟にも思える注意喚起は間違っていないと私は思う。

 

大人になると雪が嫌いになると言う人は多いし、交通が止まったりして厄介なので気持ちはわかるが、私は雪が好きだ。

窓から見る雪空は美しいし、あの音のない世界の静謐さと冷たさに異世界のような心地を覚え、特に夜の街灯に照らされた雪には絵画にも似た感銘を受けさえする。

雪があまり降らない土地で育ったせいなのだろう。

でも、豪雪地帯にも雪景色が好きな人はいると思う。私の実家は海のある街で、しょっちゅう海に遊ばせてもらったり、海風にあたって遠くを眺めたりしていたけど、今なお海は特別だ。

それと同じように、雪が特別だと言う人は、豪雪地帯にいるのだろう。

私がなんでもないと思っている風景は誰かの心の故郷なのかもしれない。