馬や牛の蹄(ひづめ)を削る動画ばかり見ている。
そんな動画のどこが面白いのか、説明は難しいし、面白いかと言われると、面白いわけではない気がするのだが、なんだか見てしまう。
よく研がれたナイフで荒れ果てた蹄をヌッと切る。硬い蹄というよりもバターを切っているみたいだ。それくらいよく切れる。
馬も牛も、なぜかみんな大人しい。
馬の脚を曲げさせて、職人が股の間に挟んで作業をする。こんな姿勢で暴れたらひとたまりもないだろう。
でも動物たちは、それが自分にとって良いことだと理解しているみたいだ。眠っているみたいに大人しくして、蹄がケアされるのを4本脚分待っている。
削る前の蹄には泥や糞やゴミが溜まりまくっていて、まずはそれを鑿(のみ)のようなもので掘り出して綺麗にする。ここが気持ちいい。
次に閻魔大王がお仕置き用に持っていそうなハサミで蹄を大雑把に切る。ばきり、ばきり、と木を割るような音がする。牛の蹄の場合は、ナタを振り下ろして爪を割る。私はここの工程がなんだかいちばん恐ろしい。動いた拍子に変な力が加わって、爪に亀裂が入って肉にまで達したら、と想像すると顔をしかめずにはいられないのだ。
さらに、例のよく切れるナイフで、蹄の底を削ぎ、ヤスリで綺麗にならしていく。ここの工程がたぶん結構大事なのだろうと推察される。少しでも断面が傾いていたら牛や馬の数百キロの体重を支えるにあたって重心がズレてしまい、足腰に負担がかかって病気などになるのではなかろうか。競走馬であったら、蹄職人の腕次第でレースの結果も変わってくるのだろう。
最後に、馬の場合は蹄鉄(ていてつ)をはめる。熱した蹄鉄を蹄に押しつけ、釘を打ち込んで固定する。
やってることが無茶苦茶である。およそ動物に施してよい行為とは思えない。熱した鉄を押しつけ、爪先に釘を打ち込む。ありえない。
でも、馬は身じろぎもせず終わるのを待っている。
不思議な話だ。
蹄は削らないとえんえんと伸びていく。人間の爪と同じように。
ひどいやつは反りかえるように生えてしまって、歩きにくそうにしている個体もいる。動物は爪切りを使って自分で爪を切れないから、ケアが行き届いていないとそういうことになってしまうのだ。
野生のやつらはどうしてるのだろう。走り回ってるから伸びすぎるということもないのだろうか。
ふと気になる。
野生の馬って……野生の馬……?想像できないなそう言えば。シマウマしかいない?野生のロバすら存在しない……?
牛は……いるな。野生。サバンナでライオンに喰われてた。「どうぶつ奇想天外」で見た。水牛とか、バッファローとか。
馬はなぜいないんだろう……。
いろいろなことが気になり始めるが、ぼーっと気になってきたあたりで動画は終わるので、そこで興味も失せて、調べたためしは一度もない。
こうやって、時間を蹄に削られている。