蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

中華料理屋での冷遇

昼に出る時間が遅くなってしまって、14時半ごろに会社近くの中華料理屋へ駆け込んだ。

この時間だと「一生懸命営業中」から「心を込めて準備中」になっているお店が多いのだが、この中華屋は運良く「一生懸命」だった。

ので、入ったら、店員の女性にキョトンとした顔をされて、でもすぐに指でどこに座るか示され、私が座る前にメニュー表を出された。

中国人の店員らしい対応である。

店内には中国の歌謡曲が流れている。たぶん男の非情を嘆く女の気持ちを歌ったものであると考察できる、そんなメロディだ。

「麻婆豆腐」を注文した。

 

私が注文してすぐ、表に掲げられていたメニューが外されて、私の隣のテーブルにどかっと置かれた。ドア横の「一生懸命営業中」も「心を込めて〜」に変えられたようだ。

麻婆豆腐が到着するや、私のテーブル以外の電気が暗くなった。

どうやら、私はラストオーダーのギリギリか、あるいはラストオーダー後に来店してしまったようだ。

それで店員も驚いた顔をしていたのかもしれない。

でも私はなに一つ間違えていない。私が来店したときには「営業中」だったのだから。

私が食べている横で、店員が看板の文字を書き換えたり、テープで補修をし始めた。

厨房からゾロゾロと料理人が出てきて、賄い飯をよそい、向こうのテーブルで食べている。

「……!%♪8〒😇?!…。堝/sa*」

「象○☆Q👺…!+>ⅸ➖」

まったく意味はわからないが、中国語で、大声で話している。筒抜けである。

どうせ私がなにも知らないと思って、日本の悪口でも言っているのだろう。そうに決まっている。

 

こんな中で激辛麻婆豆腐を啜っている自分が惨めで、哀しくて、可哀想になってきた。

私は祝福されていない。

この店の、厄介者だ。

じるじる麻婆豆腐を吸っている、変な男だ。

中国人たちは自由で、自分が中心で、なんかいいな、と思う。

だんだんムカついてきたので、なるべくゆっくり食べて、できるだけ店に長居することにしたけど、店員はマイペースを貫いているので我関せずであった。私のことなんて、ハナかり気にしちゃいない。

私もこうなりたい。

 

お会計をして店を出たとき、激辛で汗ばんだ体に風が気持ちよく、そしてなにか開放感があって、実に爽やかな気分だった。

また来ようと思った。