蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

雑然と、夏

けあって地元に帰っている。

普段は東京住まいなのだが、故郷は神奈川の海沿いの街だ。海しかないし、物はよく錆びるし、ガラも悪いしあまりよい街とは言えないかもしれないけれど、たまに帰るとなんだかんだ海があるというだけで素晴らしいことだなと思う。

いまのシーズンは海水浴客がおしかけていて、海沿いにあるコンビニや駅前のコンビニには、ほてった肌を濡らした女や熱に浮かされた男が海の砂を撒き散らしながらうろうろしていて最悪だ。

半分セックスしてるみたいな雰囲気で、Lチキにするだのからあげクンにするだの大声で話している。もう半分は金勘定をしている。そんな雰囲気。

全員がついさっき浜辺で出会ったばかりという雰囲気で、性別以外は不詳みたいだった。女たちは10代にも見えるし、30代にも見える。男たちは確実に中年だが、喋り方がおぼつかなくて日本人ではないかもしれない。

たぶんこのあと、年齢も出身も知らない同士でそのへんの浜辺で酒を飲んだり花火をしたり、胡乱になるまでセックスをしたりするのだろう。

私の地元とはつまりそういう地元で、私はそういう世界を幼い頃から目の当たりにしながら、まったく無縁に過ごしてきた。

 

こういう街に住むと、電車に乗っている人はもちろん観光客や海水浴客ばかりなので、通勤や通学で使っている人はかなり場違いに見える。実際、その母数はかなり少ない。

駅でバカンスを楽しむ人たちを尻目に、仕事でへとへとになって帰ってくる自分は滑稽であり、哀れだ。

私だけがこの街にいながら、この街にいない。

でもそれも昔からのことだからすっかり慣れた。

 

夏になると街が雑然とする。

道や駅や浜にゴミが溢れ、人が溢れ、そこかしこにゲロが落ちてたり、正体不明の液体の跡が見られたりする。コンビニは砂まみれだし、どこもかしこも潮風でぬるぬるしている。

それは決して好ましい光景ではないのだが、この光景が染み付いているので、この雑然を見ると、夏なんだなと、懐かしく思うのだった。