いつものメンバーと正月に会うにあたって毎年頭を悩ませるのが、どこに集まるか、集まってどうするか、というどうでもいい問題だ。
みんな家が離れてるし、あまり金を使いたくないし、ぶっちゃけベンチさえあって話ができればなんでもいいという仲なので、毎年ちょっとだけ困っている。
私を入れて3人組のグループ。1人は酒が飲めないし、1人は一カ所にジッとしていられない。私はどちらも大丈夫だけど、椅子の硬いところは嫌いだ。
共通しているのは、そんなに金を使いたくないという思い。
誰かの家に行けばいいけど、それぞれにパートナーがいるから無理はいえない。
どうするか悩んだ末、今年は日本橋から東海道五十三次を歩くことになった。
私たちは毎年ちょっとだけ、困っている。
日本橋に昼頃に集合してみたら、かなり人が出ていた。箱根駅伝の復路の日だったのだ。
箱根駅伝は地元がルートにもなっているので幼い頃から馴染みの深い行事だが、そういえば日本橋あたりはゴールなのを忘れていた。
各大学の応援団が沿道で応援していて、その輝きに生命力を感じ、なにか、私たちも応援されているような気持ちになった。
いつものメンバーは全員同い年で、今年で29歳になる。
全員それぞれに幸せだし、一方で問題も抱えている。何かをやらうとすると先の憂鬱ばかりが目に入る。寒さと暑さに弱く、体が弱く、意志も弱い。背中は曲がっている。
応援団の精一杯の気持ちが胸を打つ。
がんばれ、がんばれ。みんな、がんばれ。
誰かに応援される。ただそれだけのことで、明日も生きてみようと思える。
今年は個人的に応援団を雇おうか。
青山学院の選手が圧倒的で一向に他大学が来ないのではやくも痺れを切らした私たちは、一時的にルートを離れて有楽町のほうまで歩いて、南インド料理の店に入った。
店の名前は忘れてしまったが、ボリューム満点で美味しかった。ミシュランにも載った店らしい。
2種のカレーはあとから辛いタイプ。それぞれ味に深みがあり、普段は感じない味覚の部分がびくびくと反応する。
チーズの入ったナンみたいなものがかなりお腹にたまる感じ。タンドリーチキンも手羽元の部分を大きく使い、満足感はかなりある。
「うまいね」
「ああ」
「……」
私たちは美味いものについては、黙々と食事する。会話よりも大事なことがあるといわんばかりに。
沈黙に耐えられないような仲ではない。空白を恐れるように喋るわけではない。
おしゃべりな友人がいないというのは、人生において幸福なことのひとつかもしれない。
「お腹…いっぱい……」
「ね」
「……」
沈黙は金といわんばかりに。
このあと東海道五十三次ルートに戻り、たらたら歩いて品川駅で解散した。
歩きながらなにを話したのかは忘れてしまった。本当に思い出せない。目に入ったものの名前を呼んでみたり、トイレに行きたいことや、後悔したことなどを話したかもしれない。話していないかもしれない。
来年以降、品川から先に歩くのかは一体どうしてわからないが、それなりに疲れるということはわかったので、車で移動になるかもしれない。
それだって、3人集まれればなんだっていいのだ。
秋ごろに釣りに行く約束をした。